オレンジ色









「太一? どこ行くの?」

「いーから、いーから」

太一に手を引っ張られて歩き始めてから、かれこれ20分は経った。

学校から帰ってきた後、太一はイキナリうちにやってきた。

「ちょっと散歩行くぞ」

それだけ言って、腕を引かれた。

少し強引だけれど、でもそれが凄く太一らしくて。

結局私は詳しいことは何も聞かず、ただ引かれるがままに歩き続けた。









「ここ・・・?」

「ここ、のぼるぞ」

やってきたのは、小学校とは反対方面にある少し大きめな公園。

小さい頃よく遊びに来ていた場所ではなくて

小学生くらいの頃、数回友達に誘われて遊んだことがある程度の場所。

だからあんまり思い出とかはない。









「のぼるの? この山を?」

「あぁ」

山、というのは公園の中心にある小さなもの。

小学生が走って上れるし、階段だってしっかりと設置されている。

別に、のぼることに対しては何も問題はないし文句もない。

けれど、なんで?

浮かぶのは疑問だけ。









「よし、空。早くこいって」

「こいって、もう登り終わったじゃない」

階段を進めば、すぐにてっぺんに到着した。けれど太一は、まだ腕を伸ばしてくる。

「ここ」

「え?」

「ここ、のぼるんだ。腕貸すからのぼってこい」

「えぇ?!」

太一はひょいっとそこにのぼってしまう。

山頂にあるテラスの、屋根みたいな場所に。木でできた、天井に。









「危ないわよ?」

「大丈夫だって。オレとヤマトと光子郎が乗っても壊れなかったから、安心しろ」

早く来い、と太一が腕を伸ばすから。

私もその手を取って、よいしょとなんとかそこにのぼった。









山はわりと小さいものだけれど、それでもそこから見る景色はひと味違った。

学校の3階とかから見る景色よりも綺麗に見えるのは、今自分がいる場所が

自然で作られたものだからかもしれない。

そして何より・・・









「うわーーー!!!」

「すっげぇだろ? これをさ、空に見せたかったんだ」

一面に広がっている夕日が、今まで見たこと無いほど綺麗なオレンジ色で。

これまで見てきた夕日というものが偽物だったのではないかと疑ってしまうほど、綺麗だった。









「前に3人で遊んでたときに気づいてな。いつか、空にも見せようと思ってたんだ」

太一も絶景の夕日を見ながら、説明してくれた。

「で、ちょうど昨日台風がすぎて今日快晴だったろ? 雲一つねーし、見せるなら今日しかねぇと思ってさ」

ごろんと太一はその場に寝そべった。

私は隣で体育座りをしたまま、一面に広がる夕日を眺め続ける。

太陽は後ろで沈み始めていた。大きな太陽。









「それに、空なんか疲れてたみてーだから」

「え?」

「最近、すっげー疲れてる顔してるだろ? だからホント。見せるなら今だなって思ってよ」

そっと太一が私の手を握る。

「無茶するなよ? 空は抱え込みがちだから、すっげぇ心配になる」

「無茶なんてしてないわよ」

「お前自身が気づいてねぇだけだって」

ぐいっと腕をひかれた。

キャッと驚くより先に、太一の大きな腕が私を抱き留める。

抱きしめられるような形で、私は太一の上に覆い被さった。









「オレ、何にもできねーけどさ。愚痴聞くとか、八つ当たり受けとめるとかはできっから」

「そんなことしないわよ」

「うん、知ってる。だけどちゃんと言っておきたかったんだよ」

八つ当たりなんて、そんなことしない。

そんなことして、太一に嫌われたくない。









「そーら」

「え?」

「オレ、空が何してもお前のこと嫌いになったりなんてしねーよ?

だから、隠さねぇで何でも言って欲しいし。ワガママでも、なんでも言いからさ」

ぽんぽん、と優しく背中を叩かれる。

「泣き言でもいいんだぜ。って言って簡単に話してくれる奴じゃねぇってわかってるけど」

「そーよ? 私はそんな簡単に泣き言言わないわよ」

「そーだな」

顔を見合わせて、そして笑った。









「だけどね、太一」

「ん?」









凄く嬉しかった ありがとう









素直な気持ちを伝えると、彼の腕に誘導され私たちは口づけあう。

とても幸せそうな表情の彼が、私の目の前にあって。

少しだけ頬が赤い。

きっと一面に広がる夕日のせい。









私の顔が赤いのも そこに伝う雫も 彼の表情が少しだけ寂しそうなのも




全て全て 広がるオレンジ色の世界があるから



おり文:キミの弱音は聞けないことが悔しい 君の泪を見られることが嬉しい



幻桜みち様から相互記念に頂きました!
太空で書いてもらいましたが素敵過ぎる・・!
最後ちょっと切なくなります(´;ω;`)
素敵な文章ありがとうございました!


HP→